Person Dropping Paper On Box

異世界で国を作ってみた。第一話「投票をしてみよう」

プロローグはこちら

「魔族と、仲良くしたいんです」

 ケリーが頼んだこの仕事を、俺は受けるか迷っていた。

 この王国では魔族と人間は話をすることすらありえない事であり、友好関係を結ぶ事は世界中どこを見ても例がない。
 しかし、そんなことを俺は夢見ていた。

 人々と魔族が共存する世界。

 争いのない、平和な世界を。

 翌朝。

 俺はケリーにこう言った。

「魔族と仲良くする。それは、人間の世界を敵に回す事になる。しかし、それを決める事は俺にはできない。その事を決めるのはこの地域の人々だ」

 この世界には、民主主義という物が存在しないし、そもそも国民に意見を問う事がほとんどなかった。

 しかし、俺は前世の記憶をよく覚えている。

 この王国は、所謂独裁国家だ。

 それならば、この地域の管理権を持っている今のうちに平和で自由な地域を作ろう……。短絡的だが、俺はこの思いに賭ける事にした。

「投票……ですか。この地域の人々は魔族と仲良くしたいと思いますし、そもそも半魔族の人間もいるわけですから」

 半魔族の人間も、魔族と共存を願う人間の存在も知らなかった俺は少し驚いた。

 そもそも、俺はこの地域について詳しく教えられてこなかったからだ。

 いや、親の方針で隠されてきたのだろう。

 知っている事は、敵対国との国境沿いにある森の中にある街という事だけだった。

「投票についてなのだが、魔法を使って事前に告知しておこう。そして、投票で賛成が過半数を上回ったら、この地域は中立国として独立をする」

 そう言うと、ケリーは驚いていた。

 まあ独立しないとアイゲンラウホ王国とラヴァッサー魔国のどちらかを選択することになるし、逆に戦争になりかねない。

 なので、中立国として独立をしようと決めたのだ。

 投票を行う日になり、時間がやってきた。

「双方向伝達魔法。『私はこの地域の管理権を持つことになったヨハネス・フェルパーだ。内プタニア森林区の住民に問う。魔族と仲良くなりたいか。なりたいならこの地域で一つになり、独立をする覚悟はあるか』」

 広場では話し合いをする人々が見られた。

「そういえば、ケリーはなぜこのような仕事を頼んだんだ?」

「実は、私がこの洋館を管理するようになってから魔族はかなり人間に対して友好的で。アイゲンラウホや他の人間側の国が一方的に侵攻をしているのです」

 そんな話は聞いたことがなかった。しかし、宮殿に居た時に噂である話を聞いたことがある。

「ラヴァッサーは最近一切侵攻してこない」と。

 その魔法を使った日の夕方には投票の結果が集まってきていた。

 賛成九十五パーセント、圧倒的だった。

「一般伝達魔法『結果は賛成が圧倒だ。この結果、我が地域は独立することとなった。これから苦労することになるだろうが、我々は自由になるのだ!』」

 少し強気な発言をしてしまった気がするが、この地域……いや、プタニア共和国の始まりとしては十分だろう。

 翌朝、俺とケリーはある者の家に招かれていた。

 俺がプタニア大統領府として使っているあの小さな洋館よりかなり大きい洋館で、この地域では一番大きい洋館かもしれない。

 洋館に入ると、メイドが俺達を奥の部屋に案内した。

「失礼します」

 そこにいたのは、顔や手は魔族、それ以外は人の形をしている魔人だった。

「プタニア共和国の建国、おめでとうございます。私はラヴァッサー国王の息子でありこの地域でスパイをしていました、ダリウス・ラヴァッサーです」

 ラヴァッサー国王の息子がこの地域でスパイをしていたのを知った俺は最初疑ったが、スパイがわざわざこちらを招待するという事は、ラヴァッサー側も昨日の件を聞いてだろう。

 すると、ケリーはこう言った。

「ダリウスさん、今日はよろしくお願いします」

 ケリーはダリウスの事を知っているのだろうか。

「これはこれはケリー、君がヨハネス・フェルパーの側近だったのか。失礼、この子は私がしている表向きの仕事、教師として活動しているときの教え子でね。まあ、魔族好きのケリーにはすぐにラヴァッサー国王の息子だと気づかれましたけどね」

 ケリーは魔族に興味があるのか。まあ、そうでないと魔族と仲良くはしたがらないだろうが。

「まあ、この地域で私みたいな半魔族がいるのはそこまで珍しい話ではないですよ。それで、今日あなたをお呼びした理由なのですが……」

「私の父親アウリール・ラヴァッサーがこの国の長、つまりあなたと話をしたいという事で」

 父親、つまりはラヴァッサー魔国の国王だ。そんな人がいきなり話をしてくるのは予想外だった。

 少し無言になった後、俺はこう言った。

「分かりました。高度伝達魔法を使って、今から話をできますか?」

 伝達魔法には、一般・双方向・高度と種類がある。

 一般は広く一方向に伝えたい時に使う。

 双方向はそのまま双方向に話をする時に。

 そして、高度は他の人に話を聞かれることなく極秘の話をする時に。

 まあ、テレビ・電話・暗号化通信のようなものだ。

「できますよ。それでは、お繋ぎします」

「高度伝達魔法。『ラヴァッサー国王。はじめまして、私がプタニア共和国大統領のヨハネス・フェルパーです』」

次回に続く

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です